片思い日記―転がり落ちる
「チケットいりませんか」
会社が主催するとあるイベントのチケットを渡すことを口実に、また会いましょうと誘ってみた。
彼自身が元々興味のある分野ではなかったようだが、同僚たちと観にいきたいとのことだった。
お互いの仕事の情報共有も兼ねて、前回と同じカフェで待ち合わせた。
夏まっさかり。なのに、うっかり窓際に座ってしまった。
そして狙い澄ましたかのように、私の右太ももだけを集中攻撃する日差し。
「熱い…」と思いつつ、彼との会話を中断させたくない。
何ともない顔をして会話を続けていると、突然彼が
「そこ、熱くありませんか?席移動しましょうか」と提案してくれた。
別に、顔に日差しが当たってまぶしそうにしていたわけでもない。
なのに、そんなところ(太もも)に気配りができる彼に、感動してしまった。
単純でベタかもしれないが、思えばこのときが彼に「落ちた」瞬間だったのではと思う。
恋愛ご無沙汰で、さびついていた私のセンサーはちゃんと作動していた。
そういえば、昔の上司が言っていた。
「恋というのは、するもんじゃない。気がつくと、転がり落ちているんや」
「転がり落ちる」というのが、言い得て妙だ。
自分ではもう止められないのだから。